「あっりさっかさーん!」
ばぁんとV.B.Rの扉の音がして、作業をしていた紫はその手を止め、思わず額に手をやり溜息を吐いた。その様子を見て、巳艶はくつくつ笑う。
バタバタと階段を駆け上がってくる音がして、やがて1人の少年が作業場に姿を表した。と同時に、彼の頭の上に分厚いファイルが1冊落ちる。
「ったい!何すんの、有坂さん!」
殴られてずきずきする頭を抑えながら、少年はその場に蹲った。それを上から見下ろしながら、紫は何もしていないというような表情で、そしてさも当然の仕打ちだと言わんばかりに答える。
「ちぃ、お前、客が来てたらどうするんだ?」
「謝るよ」
「そういうことじゃなくてな……」
「分かってるよ。でも窓から誰も見えなかったからいいかなぁって」
えへ、と笑う彼の顔は可愛らしいのだが、何故か違和感も感じた。それはきっと彼が彼の父親にそっくりで、その父親が普段そんな顔を見せないからだろうと紫と巳艶は思う。
「それで、今日は何の用かな、ちぃくん」
「刺繍!この前教えてもらったやつ、出来るようになった!」
じゃんッと何処から出したのか、少年――千景(ちひろ)は嬉しそうに言う。それとは反対に、え、というような顔で紫と巳艶は顔を見合わせた。そして千景が持っている、細かい刺繍の入っているハンカチを見て、2人は彼に背中を向ける。
「どうしよう紫君、将来の有望株発見しちゃったよ!」
「阿呆かあいつまだ小学生だろ」
「でもあれあんなに綺麗に出来るなんて、即戦力にもなっちゃうよ!どうする、手伝わせてみる!?」
巳艶が嬉々として、けれどひそひそと紫に言う。言葉でこそうーんと呻るが、内心は巳艶と同じことを考えていた。
「え、マジ、俺手伝ってもいいの!?」
彼に聴こえないように喋ったのに、と紫は軽く舌打ちした。そして振り返ってみれば、それこそ今にも叫びかけないほど喜ぶ千景の姿。きゃーきゃー言って、その姿は宛ら自分の彼女のそれにも似ていて、確実に感化されていると思った。よく2人揃って、きらきらしたものとかひらひらしたものについて盛り上がっているし、いつか後ろ隣に住む彼の両親にいろんな意味で謝りに行かなければ行けないのではないかと今からちょっとだけ心配になる。別にあの夫婦のことだからそんなことで怒りはしないだろうけれど。
こんなにも喜んでいるのに今更水を差すことはできないし、あぁもうどうにでもなれと紫は肩を竦めた。紫の考えたことが分かったのか、巳艶がくすくすと笑う。
「きゃーもー有坂さん大好きー!」
その2人の仕草で、手伝っていいのだと了承を得たことが分かったのか、千景はぴょんと飛んで紫に抱きついた。その弾みで彼を支えきれなかった紫は千景ごと、作業台の上に倒れこみ、その上に乗っていた作業途中のドレスがばさりと床に落ちた。
「あ」
巳艶が思わず声を上げる。紫がキレるまで、後3秒。
オチがない。
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エヴァラスティン 02
アンケート設置しようかなとか思ったけど、何か面倒だった。レンタルするの。
投票なかったら寂しいし。
後2、3日は多分missばっか更新しようかな。更新っていうか再アップなだけだけど。
それでまぁ………今迄通り適当にローテーションで更新?
や、でもやっぱアンケしてみようかな……暇人だし。
miss第2章始まりました。
ホントに修正にさえ時間掛けすぎなのでいい加減修正終えたいです。
明日からmissの第2章始めます。
漸く魔法界に入ります。
暫く庭球世界は放置。
でもって暫くmiss強化期間に入ろうかと思います。
あぁ、また、だ。
夜中ふと寒さに目が覚めて、温もり欲しさに手を伸ばす。
しかしそれは綺麗に空を切り、ぽすりと掛け布団の上に着地した。
あれ、と思い眠気眼に顔を上げる。
寝る前はいたはずの、彼女の姿がない。
あぁ、また、だ。
これが所謂、マタニティーブルーというやつだろうか。
いつの頃からか、彼女は夜中に目が覚めては泣いていることがある。
それも、10代名残か、寒いガレージの隅で。
「おい、」
あぁ、また、だ。
暗くて冷たいガレージの隅に見つけた、小さな塊。
思わず声をかけるのも躊躇するほどに細かく震えているのは、
恐怖からか寒さからか未だに分からない。
最初こそ戸惑ったものだけれど今では少しだけ慣れてしまって、そんな自分にも嫌悪する。
「けぇご、」
どうした、とは訊かない。
分かってるから、彼女にそれを何度も言わせるなんて酷なこと、したくない。
「ほら、戻るぞ。寒くないか」
「待っ……やッ、怖いよ、」
彼女の腕を持って立ち上がらせ、肩から抱き込むように支えてやる。
もうすぐ臨月だというのに彼女の腹はそれ程は膨らんでいない。
そういうタイプなのだと前に彼女が言っていたのを覚えている。
「大丈夫だ、何も怖くない」
「でも……」
彼女の手が、ぎゅうっと俺のパジャマを握る。
その手に触れて、指を1本1本解くようにして力を緩めるように諭した。
そして離れたところで、ひょいと抱え上げた。
彼女は吃驚してこちらを見ていたけれど何も言わなかった。
そのまま彼女と一緒に寝室に戻って、彼女をベッドの上に座らせる。
「ごめんね、景吾。毎回毎回……」
「そう思うなら、もう夜中にあんなとこで座り込むな。不安なら、俺を起こせ」
「だって……」
「毎回こっちの身にもなってみろよ。いきなり姿を消されたら結構吃驚するんだぜ?」
「ごめん……」
「それで、今回はどうした」
彼女の横に座って、彼女を抱きしめながら言う。
頭を抱え込んであげて、安心させるように髪に指を通せば、
漸く彼女が息を吐くのが聞こえた。
「あの、ね?赤ちゃん……」
「赤ん坊が?」
「私、どうやって育てたらいいのか分からなくて」
ゆっくりゆっくりと彼女が話し出す。
初めての子育てなのだから何も分からないのは当然である。
しかし彼女の場合は、母親の愛情が少しだけ歪んでいたから、
自分の子供にも同じことをしてしまうのではないかというそういう不安なのだろう。
大丈夫だ、とは言わなかった。
自分自身もどうやって育てればいいのか分からないから、
大丈夫なんて無責任なことは言えない。
「景吾、どうしよう。もし、私みたいになったら……」
「心配するな。お前みたいになったら、俺みたいにいい男が見つけてくれるから」
もしそうなったとして、その男が見つける前に、俺が見つけるかもしれないけれど。
可愛い娘を誰かにやるなんて想像もつかない。
そもそも娘かどうかもわからないけれど。
……あぁ、俺自身、頭が働かなくなってきたかもしれない。
「そろそろ寝るぞ。明日も早い」
「ん。……ごめんね、景吾」
「もう謝るな。お前1人だけのことじゃないんだから、もっと頼ればいい」
シーツの間に潜り込む彼女を支えながら、俺もその横に入る。
そして彼女の腕の中に収めて、漸く目を閉じようとしたところで、彼女がぽつりと言った。
「ありがと、景吾」
「…………あぁ」
roseの続編的な。
「彼女」のところにはヒロインさんの名前が入ります。
エヴァラスティン 01