あぁ、また、だ。
夜中ふと寒さに目が覚めて、温もり欲しさに手を伸ばす。
しかしそれは綺麗に空を切り、ぽすりと掛け布団の上に着地した。
あれ、と思い眠気眼に顔を上げる。
寝る前はいたはずの、彼女の姿がない。
あぁ、また、だ。
これが所謂、マタニティーブルーというやつだろうか。
いつの頃からか、彼女は夜中に目が覚めては泣いていることがある。
それも、10代名残か、寒いガレージの隅で。
「おい、」
あぁ、また、だ。
暗くて冷たいガレージの隅に見つけた、小さな塊。
思わず声をかけるのも躊躇するほどに細かく震えているのは、
恐怖からか寒さからか未だに分からない。
最初こそ戸惑ったものだけれど今では少しだけ慣れてしまって、そんな自分にも嫌悪する。
「けぇご、」
どうした、とは訊かない。
分かってるから、彼女にそれを何度も言わせるなんて酷なこと、したくない。
「ほら、戻るぞ。寒くないか」
「待っ……やッ、怖いよ、」
彼女の腕を持って立ち上がらせ、肩から抱き込むように支えてやる。
もうすぐ臨月だというのに彼女の腹はそれ程は膨らんでいない。
そういうタイプなのだと前に彼女が言っていたのを覚えている。
「大丈夫だ、何も怖くない」
「でも……」
彼女の手が、ぎゅうっと俺のパジャマを握る。
その手に触れて、指を1本1本解くようにして力を緩めるように諭した。
そして離れたところで、ひょいと抱え上げた。
彼女は吃驚してこちらを見ていたけれど何も言わなかった。
そのまま彼女と一緒に寝室に戻って、彼女をベッドの上に座らせる。
「ごめんね、景吾。毎回毎回……」
「そう思うなら、もう夜中にあんなとこで座り込むな。不安なら、俺を起こせ」
「だって……」
「毎回こっちの身にもなってみろよ。いきなり姿を消されたら結構吃驚するんだぜ?」
「ごめん……」
「それで、今回はどうした」
彼女の横に座って、彼女を抱きしめながら言う。
頭を抱え込んであげて、安心させるように髪に指を通せば、
漸く彼女が息を吐くのが聞こえた。
「あの、ね?赤ちゃん……」
「赤ん坊が?」
「私、どうやって育てたらいいのか分からなくて」
ゆっくりゆっくりと彼女が話し出す。
初めての子育てなのだから何も分からないのは当然である。
しかし彼女の場合は、母親の愛情が少しだけ歪んでいたから、
自分の子供にも同じことをしてしまうのではないかというそういう不安なのだろう。
大丈夫だ、とは言わなかった。
自分自身もどうやって育てればいいのか分からないから、
大丈夫なんて無責任なことは言えない。
「景吾、どうしよう。もし、私みたいになったら……」
「心配するな。お前みたいになったら、俺みたいにいい男が見つけてくれるから」
もしそうなったとして、その男が見つける前に、俺が見つけるかもしれないけれど。
可愛い娘を誰かにやるなんて想像もつかない。
そもそも娘かどうかもわからないけれど。
……あぁ、俺自身、頭が働かなくなってきたかもしれない。
「そろそろ寝るぞ。明日も早い」
「ん。……ごめんね、景吾」
「もう謝るな。お前1人だけのことじゃないんだから、もっと頼ればいい」
シーツの間に潜り込む彼女を支えながら、俺もその横に入る。
そして彼女の腕の中に収めて、漸く目を閉じようとしたところで、彼女がぽつりと言った。
「ありがと、景吾」
「…………あぁ」
roseの続編的な。
「彼女」のところにはヒロインさんの名前が入ります。
エヴァラスティン 01